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麻酔のお話

みなさん、こんにちは。

前回のブログで、アムールヒョウのポンちゃんの健康診断
についてお伝えしました。

そこでは、「麻酔方法を従来と変えました」と簡単に書きましたが、
「そもそも麻酔って具体的にはどうやってかけるの?」
「方法が違うと何がいいの?」などと思った方も
いらっしゃるかもしれません。
今日は獣医師の目線から少し書きたいと思います。

当園では近年高齢動物が増えてきており、その結果、
全身麻酔をかけて詳しい検査や治療をする機会が以前より増えています。
しかし、全身麻酔は心身への負担もあるため、動物種や状態によって
実施方法や麻酔薬の選定など、様々なことを検討する必要があります。

大型動物や肉食獣の麻酔と聞いてイメージされることが多いのは、
「吹き矢」や「麻酔銃」ではないでしょうか。
これらの方法は、麻酔薬の入った注射筒に、専用の太めの針を装着し、
細長い筒に入れ、動物の太ももや肩の筋肉に狙いを定めて、
吹き矢はヒトの息で、麻酔銃はガスで注射筒を飛ばすというものです。
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(吹き矢の筒と注射筒)

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(注射筒)

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(針)


動物の体にうまく当たれば針から筋肉に麻酔薬が注入されます。
注射筒が刺さってからだいたい15分くらいで動物は寝てくれますが、
刺さるまでに動物が興奮していたり、針が途中で跳ね飛ばされて
麻酔薬が全量注入できない場合は、その日に麻酔をかけることを
断念せねばならない場合もあります。
また、当たり所が悪いと動物がケガをしたり、麻酔から醒めた後に
私たちを警戒するようになってしまう可能性もあります。

ポンちゃんの場合は、12歳という年齢や、健康診断や検査・治療などで
全身麻酔をかける機会が今後もあることを考え、
犬猫などのコンパニオンアニマルでは使用されることもある
静脈注射による麻酔薬の投薬を試みることにしました。

この方法を選んだ理由は以下の通りです。
・ポンちゃんは、採血のためのハズバンダリートレーニングと
 同じ方法で静脈に麻酔薬を注射することが可能なこと
・いつものトレーニングと同じ環境で行うことで、麻酔薬注射時の
 ポンちゃんのストレスを軽減できる可能性が高いこと
・(少し難しい話ですが)筋肉注射よりも静脈注射の方が使う麻酔薬の
 量を減らすことができ、身体への負担が減ること

しかし、動物園ではこの方法はあまり一般的ではないため資料も少なく、
必要な麻酔薬の量や薬剤の選択など、悩むことも沢山ありました。
そこで、獣医大の麻酔科の先生にご相談したり、色々な方にご助言を頂き、
よりポンちゃんに適した麻酔方法と麻酔薬を検討しました。
いざ寝室での静脈注射のトレーニングを開始してみると、ポンちゃんは
とても協力的でスムーズに進みました。
改めて、いつも採血トレーニングを行っているお陰だなと、
日頃のトレーニングの大切さを実感しました。

健康診断当日。
ポンちゃんは、こちらの予想通り、静脈に麻酔薬を入れ始めて
1分も経たないうちに眠ってくれました。
そして、検査もスムーズに進み、無事に健康診断を終えることができました。

麻酔のお話_c0290504_15503701.jpeg
(麻酔から目覚めたポンちゃん)


麻酔から醒めた後も、こちらを警戒する様子もなく、
いつも通りのポンちゃんでとてもホッとしました。

今後も、動物たちにより負担の少ない麻酔方法を
検討していけたらと思っています。


獣医師:きむら

by omutazoo | 2020-10-27 15:08 | 取り組み

大牟田市動物園のスタッフが、日々のさまざまなことをお伝えします!


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