2021年 07月 04日
傷病鳥獣のお話 ~トビ~
獣医師のすえひろです。
突然ですが、園内には、こんな看板があります。
当園は福岡県からの委託を受け、怪我をした野生動物の救護活動を行っています。
保護された動物たちの治療、リハビリを行い、野生復帰のお手伝いをしています。
とはいえ、生存できる個体は一握りで、なかなか厳しいものがあります。
今回は幸いにも野生復帰できた個体のお話を紹介したいと思います。
今年の5月、「トビ」が保護されて来ました。
道路上にうずくまっていたところを発見されたそうです。
いざ診察をしてみると、なんと右の顔面が腫れているではありませんか。
もしかしたら車に衝突してしまったのかもしれません。
あまり元気もない様子だったので心配でしたが、酸素下で保温、炎症止め、止血剤の注射などの処置を行いました。
次の日、入院室を覗いてみると、しっかりと立っている姿を確認しました。
ほっと一安心。
はじめは警戒してごはんも食べませんでしたが、しばらくすると食欲も出てきてました。
1週間ほどして、顔面の腫れはおさまりましたが、右眼は閉じ気味であまり見えてはいないようでした。
また、狭い入院室で過ごしていたために筋力が低下し、うまく飛べない可能性があります。
このままでは野生下で生きていけるか不安があったため、十分に復帰できるだけの体力が戻るかを確かめるために、病院の横にある少し広めの外の入院室へ移動し、様子を見てみることにしました。
数日観察したところ、右眼の状態は変わりませんでしたが、左眼で補ってしっかりとこちらを見ようとする様子が認められ、十分に翼を動かすことができるほど体力も回復してきました。
これ以上当園で保護を続けることは、この個体にとってストレスになりかねません。
そこで、6月のある晴れた日に放野する(自然にかえす)ことにしました。
従来ならば保護された場所もしくはそれに準じる環境を選ぶのですが、右眼が閉じ気味というハンディキャップを抱えており、問題があればすぐ対応できるようにしておきたかったため、休園中でお客様もいないということもあり、今回は園内で放すことにしました。
はじめは動きませんでしたが、しばらくするとしっかりとした羽ばたきを見せ、園内の高い木の上まで一気に飛んで行きました。
久しぶりの飛翔で疲れたのでしょうか。
数時間この木の上に留まった後、付近の地面に移動して休んでいたため、近くにごはんとお水を用意してそっとしておきました。
旅立てるか心配しておりましたが、夕方には姿を消し野生に戻っていきました。
1ヶ月近く保護を続けていたのでなんだか親心が湧いてしまいました。
どうか無事に生きていけますように。
がんばってね。
獣医師:すえひろ
≪傷病鳥獣保護について≫
○保護の対象となる動物は以下の通りです。
②人が原因の事故により傷ついたもの
③保護をすることによって野生復帰の見込みがあると思われるもの
ただし以下のものは対象とはなりません。
・野鳥のヒナ、産まれてまもない幼獣
・農林水産業、生活環境に被害を与える恐れが大きいもの
例:カラス、ドバト、スズメ、イノシシ、イタチなど
・特定外来生物
例:アライグマなど
・感染症の疑いがあるもの
例:疥癬(かいせん)にかかったタヌキ、大量死している野鳥など
※動物園にお持ち込みの際には、事前にお電話にてご相談ください。
※野鳥の大量死は最寄りの保健福祉環境事務所へご連絡ください。
○高病原性鳥インフルエンザの時期や、当園の傷病鳥獣の収容状況によっては
保護をお断りさせていただくことがあります。
予めご了承ください。
予めご了承ください。
by omutazoo
| 2021-07-04 16:44
| 動物