2022年 05月 20日
獣医師のお仕事 ~血液検査~
みなさん、こんにちは!
獣医師のにしむらです。
今回は獣医師の仕事の一つである、血液検査についてのお話です。
先日、ツキノワグマのツッキーの血液検査を行いました。
まずは採血です。
当園では麻酔や物理保定をしなくても、動物に協力してもらって採血ができるように、ハズバンダリートレーニングを行っています。
写真では分かりづらいのですが、このお写真ではツキノワグマのツッキーに檻に設置した採血用の筒に手を入れてもらい、手の甲から採血を行っています。
その間、ツッキーはリンゴジュースをもらっています。
血管の見えやすさや当てやすさなどは、動物種や個体によっても異なります。
ツッキーは血管がほぼ見えないので、獣医師にとっては難易度が高めの個体です。。。
なんとか1ml採り終えたら、すぐに採血管に移して病院へ。
次は検査です。
採血管には、紫キャップと緑キャップの2種類があります。
緑キャップのものは「生化学的検査」に用います。ブドウ糖や肝酵素など、血液に溶けている様々な成分を検査します。腎臓や肝臓といった臓器の働きに異常が無いかを知ることができます。
紫キャップのものは「CBC検査(全血球検査)」に用います。赤血球や白血球といった細胞の数・形を検査します。貧血や、最近やウイルスへの感染の有無を知ることができます。
緑のキャップのものに入れた血液は、遠心分離機にセットして、5分間高速回転!
血液を遠心分離すると、透明な液体部分(血漿:けっしょう)と赤い部分(血球=白血球や赤血球など細胞)に分かれるんです!
でも、生化学的検査に使用するのは透明な部分だけ。
赤い部分を吸わないように気を付けながら、検査用の入れ物に透明な液体部分を移して機械にセットします。
これが生化学検査の機械です。測定!
緑キャップのものを遠心分離機で回している間に、CBC検査を行います。
動物種ごとに最適な検査ができるように、動物種を設定します。
しかし設定できるのは、犬、猫、牛、馬、ネズミなどなど、一般的に飼育されている動物種のみ。
動物園にいる動物たちそれぞれに対応した項目はないので、動物園では調べたい動物に一番近い動物種を選択して検査を行います。
ツキノワグマなら「犬」ですね。
紫キャップの血液を吸引させて、測定!
顕微鏡で血球の形や数を直接観察するために、塗抹標本も作製します。
スライドガラスにほんの少し血液を置いて(写真のものは多すぎです)、
カバーガラスという、もっと薄いガラスの板で血液を薄く引き伸ばします。
上手に血液を伸ばすのはなかなか難しく、コツをつかむまでは、ひたすら練習が必要です。
ドライヤーで乾かして、透明なメタノール→赤い染色液→青い染色液の順番で浸し、水道水で余計な液を洗い流します。
ドライヤーで乾燥させたら塗抹標本の出来上がり!
顕微鏡で観察します。
大きな細胞は白血球で、中央にある青色のぐにゃぐにゃのものは、細胞の核です。
周りに沢山ある細胞は赤血球で(写真では色がわかりずらいですが)、赤血球には核がありません。
形や大きさにおかしなところは無いか、普通なら見られないはずの細胞がでてきていないか、よく観察します。
それらを記録し、今までの検査結果と見比べながら、おかしなところが無いかを確認します。
異常が見つかった、追加で別の検査を行ったり、投薬をしたりなどの対応をします。
血液は動物の健康状態について、たくさんの情報を与えてくれます。
ただ、犬や猫とは違って、動物園の動物では血液検査のデータ数が限られることから、どこからどこまでが「正常」なのかなど、正確には分からないことも、まだまだたくさんあります。
蓄積された血液検査の結果は、個々の動物たちの健康状態のモニタリングにとどまらず、他園館ともデータを共有するなどしてもっと活用していきたいと思います。
獣医師 にしむら
by omutazoo
| 2022-05-20 12:54