2022年 09月 05日
傷病鳥獣のお話 ②~安楽殺という選択肢~
皆さん、こんにちは。
獣医師のすえひろです。
【固定の様子・右翼をテーピング】※麻酔下で治療を行ったため、寝ています
固定から1週間後、包帯を外して確認しましたが、残念ながら骨の癒合を全く認めず、骨折が治る見込みがないことが明らかになりました。
この結果を受け、ある選択肢をとることになりました。
それは安楽殺です。
少々ショッキングな言葉ですが、この個体の福祉を考えた場合、この選択肢は最善であると思われます。 もし骨折した状態で野生に戻したら狩りをすることができないので、餓死してしまいます。 終生飼育(野生に戻さずに飼育する)という方法もありますが、これまで野生で生活をしてきた個体を飼育すること、それ自体がストレスとなってしまう恐れがあり、動物福祉に配慮した飼育が困難である可能性があります。
そのため行政へきちんと状況を説明、協議した結果、安楽殺が妥当であるという結論に至り、実施することになりました。
安楽殺の実施は可能な限り動物に恐怖や苦痛を与えない方法で行います。 今回の実施もその点に配慮した方法で行いました。
このように野生動物の保護の現場では、無事に野生復帰できる個体、治療中に亡くなってしまう個体、救命できても野生復帰が難しい個体、と実に様々な状況に出会います。 その個体にとってどのような選択をしていくのが最善であるのか、周囲と連携を取りながら、評価し、判断、実施していくのは獣医師の責務でもあります。
今後も保護されたひとつひとつの個体と向き合い、傷病鳥獣の保護に努めて参りたいと思います。
当園では動物園動物の飼育だけでなく、行政を通して自然界で傷ついた野生動物、すなわち傷病鳥獣を受け入れることがあります。
以前、ブログで幸いにも野生復帰できた個体の紹介をしましたが、今回は復帰が難しかった個体のお話をしたいと思います。
2022年7月の下旬、ハヤブサの保護個体の受け入れ依頼のお電話を受けました。
1週間ほど前にうずくまっているところを捕獲され、元気はあるものの、右の翼を負傷し、飛べなくなっている個体ということでした。
まず、状況の把握をするために、病院で診察をしました。
視診・触診をしてみると、右翼の骨折が疑われたので、更に詳しく診断するためにレントゲンを撮影しました。
すると、右の翼の上腕骨がぼっきり折れてしまっていることがわかりました。
保護までに時間がかかってしまったことにより、患部の壊死が進んでいることもあり、整復はなかなか難しいと思われました。
しかし、まだ活力が残っていたため、一縷の望みをかけ、骨にピンを入れ、包帯でテーピング固定するという治療を実施しました。
獣医師 すえひろ
by omutazoo
| 2022-09-05 09:31
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